Z軸の引っ越し
Dynamic lift-off to the Z-axis
2022年12月
鉄・ワイヤー・木材・畳・トラッククレーン
steel , wire , wood , tatami , truck crane
茨城県日立市 / Ibaraki-ken Hitachi-shi
建築を設計する時の画面内には、そもそも重力がないので、自由に動かすことができる。でも、建築とは「地面に定着している」ものであり、多くの見えない前提に縛られている。
それなら、実際の木造家屋を対象に、Z軸方向への引っ越しを計画したらどうなるのか。その一連の記録と、移動する一本柱を展示する。


昭和40~80年代にかけて、規格化されたグリッド上の間取りの木造家屋が大量生産された。同じ間取り、同じ屋根の家が、同じ敷地に並んでいる。


しかし、天井を剥がしてみると、そこには個性ある組木の構造体がある。同じ図面から量産されたこの建築ひとつひとつが大工の手仕事で成り立っていたことが分かる。

「量産された家の個性ある構造」に、CAD上でグリッドの線を引き、新たな鉄のグリッドを貫通させた。

鉄の柱は木の柱よりも細いので、グリッドが重なる柱は表面が木材のまま鉄の構造に置き換わる。こうして新たな枠を設定することで、家を分割して引き抜く「抜枠(ばっすい)」が可能になる。


「一本柱」と、それを含む一坪を、ディスプレイ上でZ軸方向に3Dモデルを動かすように切り取る。


あえて画面上ではなく地球の上で、マウスカーソルの代わりにクレーンを使って、おそるおそるこの一坪の吊り荷を地切りし、建築から解放した。




This is my graduation project, In this performance piece, I used a crane to vertically extract a pillar from a mass-produced Japanese house, physically manipulating the earth’s surface and confronting the viewer with the ongoing process. By reversing gravity and bringing the extracted pillar into the viewer’s space, I aimed to challenge the fixed notions of architecture.
Architectural design is typically carried out in a screen-based environment where gravity does not exist, but the act of “moving in the Z-axis direction” on screen feels disconnected from the gravity-bound reality. In the real world, buildings constructed with actual materials are fixed to the ground, both physically and socially bound by numerous invisible assumptions.
The mass-produced standardized house that I focused on was once planned in Japan using the same design as if it were copy-and-paste on a screen. However, I realized that even the beams in that same design were crafted like sculptures by local artisans.
量産住宅からクレーンで1本の柱を垂直に引き抜き、鑑賞者の目の前に持ってくることで、現在進行形で起こり続けるパフォーマンスとしてその一連を記録した卒業制作。地球の表面を物理的に操作する手段としてクレーンを用いることで、重力に逆らい、建築の固定概念を揺さぶることを試みている。
建築の設計は重力がない画面内の環境で行われているが、画面内での「Z軸方向に動かす」という動きは、重力が前提にある現実からは乖離している様に感じる。実際の材料で組み立てられた現実世界の建築は「地面に定着している」ものであり、物理的にも社会的にも多くの見えない前提に縛られているように感じる。
対象としたのは、かつて日本で量産された規格化住宅のひとつであり、それこそ画面の中でのコピー・アンド・ペーストのように同じ図面で大量に計画されたものである。しかし、その同じ図面の梁も地域の職人の手仕事で彫刻のように作られていたのだ。

